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【令和8年10月施行】106万の壁撤廃、週20時間未満でも安心できない3つの誤解と対処法

「106万円の壁」と書かれた木製ブロックと電卓が置かれた机の上

ニュースでたびたび話題になる「106万円の壁撤廃」。

パートやアルバイトで働く方にとっては、「これから自分の手取りはどうなってしまうのだろう…」と生活への影響が心配になりますよね。

一方で、経営者や人事担当者の方にとっても「会社として何を、いつまでに準備すればいいのか」「頑張ってくれているパートさんにどう伝えればいいんだろう」と、頭を悩ませているかもしれません。

まず、押さえておくべきポイントをお伝えします。

  • 働く方:現在の「労働時間」と「年収」が、新しい加入条件に当てはまるかを確かめることが第一歩です。
  • 経営者・人事担当者令和8年10月の施行に向け、対象となる従業員の洗い出しと費用試算を進め、遅くとも施行2〜3カ月前(7〜8月ごろ)には従業員への説明を始めましょう。

今回の改正で最も重要な判断基準となるのが、社会保険の加入基準として唯一残る「週20時間の壁」です。

これまでは「月額8.8万円以内」に収入を抑えれば社会保険の加入を避けられましたが、今後はこの賃金要件がなくなり、影響を受ける方の範囲は想像以上に広がる可能性があります。

この記事の前半は、パート従業員の方がご自身の状況を正しく把握できるよう、分かりやすくまとめています。特に「従業員への影響」を解説した部分は、経営者の方がそのまま従業員の方へ渡して説明資料としてご活用いただくことも可能です。

この記事でわかること

  • 「106万の壁」撤廃によって変わる具体的なポイント
  • 「週20時間未満なら大丈夫」という思い込みに潜む落とし穴
  • 経営者・人事担当者が今すぐ取り組むべき4つの実務対応
  • 企業が直面しやすい労務リスクと、円満に乗り越えるための回避策
この記事を書いた人
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南 彰悟

1986年3月6日生まれ。大分県出身。早稲田大学を卒業後、25歳で公認会計士試験に合格。大手監査法人に8年程勤める。2020年税理士登録。イデア総研税理士法人の副代表として活動する。

目次

「106万の壁」撤廃で社会保険の加入条件はどう変わる?

液晶画面に「1060000」と表示された白い電卓と、背景に広がる1万円札

これまで、短時間労働者が社会保険(健康保険・厚生年金)に入るかどうかは、「週20時間以上」と「月額8.8万円以上」の両方の条件を満たしたときに決まっていました。

つまり、どちらか一方でも下回っていれば加入する必要がなかったのです。

しかし今回の制度改正によって、この仕組みが大きく様変わりします。

令和8年10月に賃金要件(月額8.8万円)が撤廃される

現在、パートやアルバイトの方が社会保険に入るには、次の4つの条件をすべて満たす必要があります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 賃金が月額8.8万円(年収106万円相当)以上
  • 企業規模要件を満たしている(現在は従業員51人以上)
  • 学生ではないこと

令和8年6月に成立した年金制度改正法により、このうちの「月額8.8万円以上」という賃金要件が撤廃されることになりました。

全47都道府県の最低賃金が時給1,016円を超えたことの確認を経て、令和8年10月にこの要件がなくなることが確定的な見込みとなっています。

ここで知っておきたいのは、「変わるのは賃金要件の撤廃だけ」という点です。「週20時間以上」という労働時間の条件や「学生ではないこと」などの基準は、今後もそのまま残ります。

「週20時間以上」がパート・アルバイトの唯一の加入基準になる

賃金の条件が撤廃されると、実質的に「週20時間以上働いているかどうか」が、社会保険に入るかどうかを決める唯一の基準となります。

この「週20時間」の判断は、原則として雇用契約書や労働条件通知書に書かれた「所定労働時間(契約上の時間)」で行われます。そのため、突発的な残業時間などは直接の判定基準には含まれません。

ただし、注意したいのは現場の実態です。残業などが続いて実態として2カ月連続で週20時間を超え、今後も続く見込みがある場合は、職権で(会社や本人からの申請がなくても年金事務所の判断で)加入対象(強制適用)となります。「契約上は週19時間だから大丈夫」と放置してしまうと、思わぬトラブルにつながるため注意が必要です。

また、「106万円の壁がなくなるなら、いくら稼いでも扶養のままでいられるのでは?」と誤解されがちですが、それは違います。いわゆる「130万円の壁」はそのまま残るためです。具体的な影響については次のセクションで詳しく解説します。

適用される企業規模は段階的に縮小、令和17年(2035年)には全企業が対象に

「来年の10月になったら、うちの会社もすぐ全員対象になるのでは…」と焦る経営者の方もいらっしゃいますが、まずは冷静に自社の規模を確認しましょう。

社会保険の適用対象となる企業の規模は、以下のように段階を踏んで広がっていきます。

施行時期 企業規模要件
〜令和9年(2027年)9月 51人以上
令和9年(2027年)10月〜 36人以上
令和11年(2029年)10月〜 21人以上
令和14年(2032年)10月〜 11人以上
令和17年(2035年)10月〜 全企業対象(10人以下を含む)

※従業員数は、厚生年金の適用対象者(厚生年金に加入している従業員など)の合計で判断します。

出典:被用者保険の適用拡大について(厚生労働省保険局)

さらに、これまでは一部の業種に限られていた個人事業所への適用も、令和11年10月からは常時5人以上を雇用する全業種へと拡大されます(既存の事業所は当分の間適用除外)。

出典:年金 社会保険の加入対象の拡大について(厚生労働省)

整理すると、令和8年10月の時点での企業規模要件は「51人以上」のままです。

次の変更(36人以上)は令和9年10月ですので、現在従業員数が50人以下の企業様は、令和8年10月のタイミングで慌てて対応する必要はありません。自社がいつのタイミングで対象になるのか、スケジュールを把握しておくことが大切です。

手取りと会社の社会保険料負担はいくら変わる?

給与支給明細書と新1万円札、電卓が並べられた様子

制度が変わることで、働く従業員側と雇う企業側の双方に具体的にどのような影響が出るのかを見ていきましょう。

従業員への影響:年収125万円未満だと手取りが年間15万円前後減る

※以下の内容は、社内での説明や従業員の方への案内資料としてもそのままご活用いただけます。

「週20時間未満におさえているから大丈夫」と思っている方ほど、見落としがちなポイントがあります。

週19時間でも130万円を超えれば扶養から外れる

「時間の調整さえしていれば、ずっと扶養内でいられる」と安心してしまうのは危険です。先ほど触れた通り、「130万円の壁」は残っているからです。

例えば、時給1,320円で週19時間、1年間(52週)働いたとしましょう。

計算すると、1,320円 × 19時間 × 52週 = 130万4,160円となり、130万円を超えてしまいます。

この場合、週20時間未満のため勤務先の社会保険には入れませんが、扶養からは外れてしまうため、自分で国民健康保険や国民年金に加入し、全額自己負担で保険料を支払わなければならなくなります。

年収125万円未満では、加入しても手取りが減る

では、会社の社会保険に入った場合の負担はどのくらいになるのでしょうか。

標準報酬月額(毎月の給与額をもとに社会保険料を計算するための基準額)が8.8万円(年収約106万円)の場合、健康保険料と厚生年金保険料を合わせて毎月約1万2,386円が給与から天引きされます。

これは年間で約15万円もの負担増です。

手取りを減らさないための「損益分岐点」は、おおむね年収125万円(標準報酬月額10.4万円程度)とされています。この水準まで働く時間を増やせば、保険料を引かれても加入前より手取りが多くなります。

もちろん、負担が増えるだけではありません。

厚生年金に加入すれば将来受け取れる年金額が増えますし(月収8.8万円で10年加入した場合、年額約5.4万円増)、病気やケガ、出産で仕事を休んだ際に「傷病手当金」や「出産手当金」が受け取れるという、暮らしの安心につながる大きなメリットもあります。

夫の扶養手当が消えると、負担はさらに増える

手取りの試算をする際、もう一つ注意したいのが「配偶者の会社から支給されている扶養手当(家族手当)」の存在です。

配偶者の勤務先から手当が出ているご家庭も多いのではないでしょうか。金額は会社によりますが、平均すると月額1.76万円、年間で約21万円にもなります。

もし社会保険に入って扶養から外れると、この手当が支給停止になる可能性があります。保険料の負担と合わせると家計への影響が大きくなるため、事前に確認しておくことが欠かせません。

なお、令和8年4月から被扶養者の認定ルールが一部見直されました。「労働条件通知書」などの契約上の見込み年収が130万円未満であれば、繁忙期などに一時的に収入が増えて130万円を超えてしまっても、扶養が維持されやすくなっています。現在の雇用契約の内容を一度確かめておくと安心です。

企業への影響:実態が週20時間を超えると最大2年分の保険料を遡及徴収される

企業側の労務リスクは、雇用契約書上の数字と現場の勤務実態にズレが生じたときに発生します。

書面上19時間でも実働20時間超なら、遡及加入になる

「社会保険に入りたくない」というパートさんの希望を尊重して、契約上のシフトを週19時間に設定しているケースは少なくありません。

しかし、実務上の実態として週20時間以上働いている状態が2カ月を超えて続けば、法律上、社会保険の加入対象となります。

年金事務所の調査では、算定基礎届(毎年、社会保険料を決めるために提出する届出)と実際の給与データが一致しているか、加入すべき人が漏れていないかが厳しく確認されます。特に算定基礎届や賞与支払届(ボーナス支給時に提出する届出)の未提出がある事業所は調査対象になりやすいため、実態に即した運用が必要です。

手続きを遅らせると、過去2年分の保険料を遡及徴収される

「実態は週20時間超だけど、本人も望んでいないから…」と放置し、調査で未加入を指摘された場合、過去にさかのぼって加入手続きを行わなければなりません。

社会保険料の徴収時効は2年であるため、最悪の場合、過去2年分の保険料を一括で遡及徴収(さかのぼって徴収)されることになります。

会社負担分はもちろん、従業員負担分も過去にさかのぼって給与から控除せざるを得なくなり、大きな金銭的負担と社内の混乱、そして従業員からの深い不信感を招くことになります。

また、従業員本人から「加入したい」と申し出があった場合も、条件を満たしていれば会社には速やかに手続きを行う義務があります。

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現在「週18〜22時間」で働くパート従業員をリストアップする

まずは社内の現状把握からスタートしましょう。手順は以下の通りです。

  • 自社の規模が「従業員51人以上」に該当するか確認する
  • 現在「週18〜22時間前後」で働いているパート・アルバイトをリストアップする
  • 契約上は週20時間未満でも、シフトの実態として20時間を超えている人がいないか確認する

令和8年10月時点での基準は「51人以上」です。まずは自社がこの対象になるか、そして対象となりそうな従業員が何人いるかを明確にしましょう。

従業員1人あたり年間約15万円の「社会保険料の負担増」を試算する

社会保険料は会社と従業員で半分ずつ負担する「労使折半」です。そのため、従業員が社会保険に加入すると、会社にも同額の負担が発生します。

月額8.8万円のパート従業員が1人加入する場合、月額賃金に対して約14〜15%の追加費用がかかり、会社側にも年間で約15万円のコスト増となります。

もし対象者が5人いれば、年間で約75万円の負担増です。この影響額をあらかじめ試算し、資金計画や予算に組み込んでおきましょう。新たに対象となる方がいる場合は、年金事務所へ「被保険者資格取得届」を提出する事務手続きも必要です。

キャリアアップ助成金などの支援制度を活用してコスト負担を軽くする

「会社側のコスト負担が重すぎる…」と頭を抱える前に、国が提供している支援策を賢く活用しましょう。

注目したいのが、令和7年7月に新設された「キャリアアップ助成金 短時間労働者労働時間延長支援コース」です。

パート従業員などの労働時間を延ばして新たに社会保険へ加入させた場合、小規模企業であれば1人あたり最大75万円(1年目50万円+2年目25万円)が助成されます。

※支給額は労働時間の延長幅や賃金の増加率によって異なります。なお、旧「社会保険適用時処遇改善コース」は令和8年3月31日で終了しており、本コースはその要件や助成額が見直された後継制度です。

出典:年収の壁対策 労働者1人につき最大75万円助成します!(厚生労働省)

さらに、従業員数50人以下の企業などで、企業規模要件の縮小に伴い新たに社会保険適用となる場合には、「保険料調整制度」という特例措置も用意されています。

これは新加入する従業員本人の保険料負担を軽減し、その分を一時的に会社側が肩代わりする仕組みですが、事業主が納める最終的な保険料総額が増えるわけではありません。年収約106万円のケースでは、1〜2年目の本人負担割合を25%まで軽減できます。

前述のキャリアアップ助成金とこの保険料調整制度を組み合わせれば、会社の負担をさらに軽くできる可能性があります。ただし、事前の計画書提出や「GビズID」(行政手続きをオンラインで行うための企業向け共通ID)の取得など準備が必要なため、早めの着手をおすすめします。

離職を防ぐため、施行の2〜3カ月前には従業員へ説明する

制度が始まる直前になって突然「来月から手取りが減ります」と伝えてしまうと、従業員は不安や不満を抱き、最悪の場合「辞めます」ということになりかねません。

施行の2〜3カ月前(令和8年7〜8月ごろ)には、個別の面談や説明の場を設けましょう。

説明の際にお伝えしたい大切なポイントは以下の3点です。

  • 社会保険の加入条件と、会社も保険料の半分を負担して応援していること
  • 損益分岐点(年収125万円)を踏まえた手取りの変化と、将来の年金増や保障といったメリット
  • 配偶者の扶養手当への影響の確認

「手取りを減らしたくない」という従業員お一人おひとりの気持ちに親身に寄り添いながら、労働時間を調整するのか、あるいは時間を増やしてしっかり稼ぐのか、一緒に将来の働き方を考えていく姿勢が大切です。労働条件が変わる場合は、雇用契約書の再締結も忘れずに行いましょう。

106万の壁撤廃・週20時間要件に関するよくある質問

「FAQ」と書かれた3つの木製ブロック

現場でよく寄せられる疑問をまとめました。社内での対応や従業員への説明にお役立てください。

Q. 週20時間ちょうどのパート従業員も社会保険に加入しなければならない?

A. はい、加入対象となります。

基準は「週の所定労働時間が20時間以上」となっているため、「ぴったり20時間」の方も含まれます。基本的には契約上の時間で判断しますが、実態として2カ月連続で20時間を超えている場合は加入義務が生じますのでご注意ください。

Q. 学生アルバイトも社会保険の加入対象になる?

A. 通常の学生(昼間学生)であれば、加入対象外です。

改正後も「学生でないこと」という条件は残ります。ただし、休学中の方や定時制・通信制の学生などは加入対象となる場合がありますので、個別の確認が必要です。

Q. 会社と従業員で社会保険料の負担割合はどう分かれる?

A. 会社と従業員で半分ずつ負担する「労使折半」です。

健康保険料・厚生年金保険料のどちらも、従業員の給与から天引きする金額と同額を、会社が負担して合わせて納付します。

Q. 「103万円の壁(所得税)」と社会保険の壁は何が違う?

A. 社会保険の壁とはまったく別の「税金」の制度です。

「106万円・130万円の壁」は社会保険に入るかどうかの基準ですが、「103万円の壁」は本人の所得税に関する基準です。

なお、「103万円の壁」には「本人の所得税が非課税になるライン」と「家族が扶養控除を受けられる所得条件」の2つの意味があります。このうち家族の扶養控除の条件については、令和7年度税制改正により103万円から123万円へ引き上げられました。いずれも社会保険の基準とは別物ですので混同しないようご注意ください。

出典:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(国税庁)

まとめ:106万の壁撤廃の影響を把握し、早急に実務対応を進めよう

106万の壁が撤廃されても、「週20時間」という労働時間の壁が新たな判定基準として残ります。

企業規模要件も段階的に広がっていくため、自社がどのタイミングで対象になるのかを正しく把握し、事前の準備と従業員への丁寧な説明を進めていくことが何より大切です。

対応が後手に回ってしまうと、過去に遡って保険料を徴収される金銭的リスクだけでなく、「会社からちゃんとした説明がなかった」と大切な従業員からの信頼を失ってしまうことにもつながりかねません。

この記事のポイント

  • 令和8年10月に賃金要件(月8.8万円)が撤廃され、「週20時間」が唯一の加入基準になる
  • 週20時間未満であっても、年収130万円を超えれば扶養から外れるため注意が必要
  • 企業規模要件は段階的に縮小され、令和17年10月には全企業が対象となる
  • 従業員側は年収125万円未満だと手取りが減るため、今後の働き方の話し合いが必要
  • 企業側は遡及徴収のリスクを防ぐため、正確なシフト管理と助成金の活用を進める

とはいえ、対象者の洗い出しから会社負担の試算、助成金の申請、さらには従業員への説明資料の準備まで、自社だけですべてをこなすのは大変な負担です。

私たちイデア総研グループなら、税理士法人と社会保険労務士法人が一体となって、これら面倒な実務をまるごと代わりに進められます。

その手間を減らすところから、まずはご相談ください。

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