投稿日:2026.06.04 最終更新日:2026.06.04
役員報酬の決め方で損をしない|設立3カ月以内に確認すべき手順と金額設計
会社を設立したばかりの社長が、最初に迷うことのひとつが役員報酬の設定です。「いつまでに決めればいいか」「いくらが正解か」が分からないまま、時間だけが過ぎていってしまう。
ところが、役員報酬には「設立後3カ月以内」という期限があります。この期限を過ぎてしまうと、自分への報酬が会社の経費として税務署に認めてもらえなくなります。
しかも、一度決めたら原則として1年間は変えられません。
「最初に正しく決める」以外に選択肢がない、それが役員報酬です。
顧問先800社以上を持つイデア総研税理士法人が、設定ミスで実際に起きている損するパターンと、それを防ぐための手順・金額の考え方を解説します。
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この記事でわかること
- 設定ミスで起きやすい3つの損パターン
- 役員報酬と従業員給与の違い
- 損金算入できる3つの形態と中小企業が選ぶべき2択
- 設立後3カ月以内に済ませる4つの手続きの全手順
- 手取りが増える金額の設計方法
- 設立直後に信じがちな2つの思い込みと正しい判断軸
南 彰悟
1986年3月6日生まれ。大分県出身。早稲田大学を卒業後、25歳で公認会計士試験に合格。大手監査法人に8年程勤める。2020年税理士登録。イデア総研税理士法人の副代表として活動する。
設定ミスが招く3つの損パターン

役員報酬の設定で失敗するパターンは、ほぼ3つに絞られます。
「まさか自分が」と思いがちですが、設立直後であれば、どれかひとつは当てはまるはずです。
パターン① 高く設定しすぎると税務署に否認される
「自分の報酬を高くすれば、会社の利益が減って、法人税(会社が払う税金)が安くなる」という考え方自体は正しいです。
しかし、「だったら高く設定すればするほどいい」と考えて、業績に見合わない金額を設定してしまうと、税務署に「この金額は高すぎる」と判断されることがあります。
その結果、超過した部分は会社の経費として認められなくなります。節税のつもりが、追加の税金(加算税・延滞税)まで発生してしまうのです。
出典:法人税法第34条第2項
パターン② 低く設定しすぎると社会保険料の保障を失う
「まだ設立したばかりだし、役員報酬は低め(または0円)にして、社会保険料の節約から始めよう」と考える方は多いです。
気持ちはよくわかります。ところが実は、これは2つの意味で損をします。
まず、健康保険の「傷病手当金」が受け取れなくなる可能性があります。傷病手当金とは、病気やケガで仕事を休まざるを得なくなったとき、最長1年6カ月にわたって給付されるお金です。社長は休んでも誰も代わりがいません。だからこそ、いざというときのセーフティネットとして重要です。それが使えなくなってしまう。
次に、「給与所得控除」という節税効果も消えます。役員報酬は給与として扱われるので、本来であれば年間最大195万円分を「なかったこと」にして税金を計算してもらえる仕組みです。0円にすると、この恩恵が丸ごとなくなります。
「節約のつもりが、保障も節税も、両方失った」という状態になってしまいます。
パターン③ 手続きが漏れると経費として認められない
「金額は決めた。でも、株主総会を開いていなかった」「議事録を作っていなかった」「設立から3カ月が過ぎてしまっていた」という状態で税務調査を受けると、「正式に決められた役員報酬ではない」と判断されて、経費として認めてもらえなくなることがあります。
「金額を決める」ことと「手続きを正しく踏む」ことは、別の話です。両方が揃って初めて、税務署に経費として認めてもらえます。
「税理士に頼んでいるから大丈夫」と思っていたら、議事録の作成が作業範囲に含まれていなかった、というケースも実際にあります。顧問税理士に依頼する際は「株主総会の議事録作成も対応してもらえますか」と最初に確認することをお勧めします。
そもそも:役員報酬のルールが厳しい理由

3つの損パターンを防ぐには、なぜここまで厳格なルールが設けられているのかを理解しておく必要があります。
理由はシンプルです。役員は、「自分で自分の報酬を決められる立場」にあるからです。
もし制限がなければ、業績がいいときに報酬をどんどん上げて、会社の利益を意図的に減らすことができてしまいます。それを防ぐために、法律で厳しいルールが設けられています。
出典:法人税法第2条第15号
「うちは家族経営だから大丈夫」は危ない
ここで多くの方が見落とすのが「みなし役員」という概念です。聞き慣れない言葉ですが、知らないと痛い目に遭います。
例えば、こんなケースがあります。奥さんが「従業員」という肩書きで会社に在籍していて、仕入れの業者を選んだり、経理の最終チェックをしたりしている。肩書きは従業員でも、やっていることは経営判断です。
この場合、税務署は「この人は実質的に役員と同じ立場だ」と判断することがあります。これが「みなし役員」です。そうなると、肩書きに関係なく、役員報酬のルールが適用されます。
税務調査でこれが指摘されると、過去の申告をやり直すよう求められることがあります。家族に給与を払っている方は、この点を早めに確認しておくことをお勧めします。
役員報酬と従業員給与は3つの点で別物
「社長の給料も、社員の給料も、会社が払うお金は同じじゃないの?」と思うかもしれません。
税務上は全く別物として扱われます。大きく3つの点で違います。
| 比較項目 | 役員報酬 | 従業員給与 |
|---|---|---|
| 変更の自由度 | 原則、年度開始から3カ月以内に年1回のみ変更可 | 随時変更可(労働契約・就業規則の範囲内) |
| 損金算入(経費として認められること) | 税務署が認める3つの形態のみ | 原則、支払った全額が経費になる |
| 社会保険 | どちらも健康保険・厚生年金の加入対象 | 同左 |
「損金算入」という言葉が出てきましたが、簡単に言うと「会社の経費として税務署に認めてもらえること」です。経費として認められると、会社の利益が減り、法人税も下がります。
従業員への給与は基本的に全額が経費として認められます。しかし役員報酬は「税務署が認めた方法で払った場合だけ」経費になります。役員報酬は変えにくいだけでなく、支払い方を間違えると経費にすらならない。 これが最初に理解しておくべきポイントです。
中小企業が使える支払い形態は2つだけ

役員報酬を支払えば自動的に経費になるわけではありません。税務署が経費として認める支払い方は3種類だけです。それ以外の方法で払うと、経費として認めてもらえず、法人税の負担が増えます。
3種類は、①定期同額給与、②事前確定届出給与、③業績連動給与です。ただし、③は上場企業向けのルールで、中小企業が使えるのは①と②の2つだけです。
① 定期同額給与は1円でも変えると経費にならない
「定期同額給与」とは、毎月ぴったり同じ金額を払い続ける形態です。中小企業のほとんどが、この方法で役員報酬を設定しています。
ここで注意したいのが「同額」の厳しさです。
例えば、先月100万円支払ったとします。今月は銀行振込の手数料の計算がずれて、101万円になってしまった。たった1万円の差ですが、これで「同額」の条件が崩れます。1円でも変わると、経費として認めてもらえなくなります。
「端数くらい大丈夫だろう」という感覚は通用しません。変更できるのは年度開始から3カ月以内の1回だけです。
② 事前確定届出給与を使えば役員賞与も経費になる
「役員には賞与を出しても経費にならない」と思っていませんか?
実は、事前に税務署へ届け出ることで、役員への賞与も経費にできます。これが「事前確定届出給与」という制度です。知らないまま使わずにいる会社が多い、見落とされがちな節税手段です。
届出の期限は「株主総会の決議日から1カ月以内」または「会計期間開始日から4カ月以内」のいずれか早い方です。
ただし、届け出た金額と実際の支払い金額が1円でも違うと、全額が経費として認められなくなります。「業績が悪かったので届けた100万円を80万円にした」という場合、この80万円は全額、経費になりません。
イデア総研では、基本給与は①の定期同額給与で設定し、業績に応じて賞与を出したい場合に②の事前確定届出給与を組み合わせる設計を提案することが多いです。顧問税理士に相談するときは「①と②の組み合わせで設計してほしい」と最初に伝えると、賞与の経費算入漏れを防げます。
③ 業績連動給与は中小企業には関係ない
会社の業績に連動して金額が変わる形態ですが、「非同族会社であること」「上場企業レベルの開示義務があること」など、中小企業では満たせない条件がいくつもあります。
「うちには関係ない」と判断して問題ありません。
設立後3カ月以内にやる4つの手続き

「3カ月以内に決める」ということは知っていても、「何を、どんな順番で、いつまでに決めるのか」まで把握している方は少ないです。
金額を決めるだけでは不十分です。誰が・どんな手順で・いつまでに決めたかという「決定の記録」が、税務調査のときに証拠として必要になります。
この期限を1日でも過ぎると、増額した分が経費として認められず、追加の税負担が発生します。
手続きは4つです。①株主総会で上限を決める→②個別の金額を決める→③議事録を作成・保管する→④毎月同額で支給を開始する、の順に進めます。
① 株主総会で報酬の総額上限を決議する
役員報酬は、株主総会の決議を経て決めなければなりません。
出典:会社法第361条
ここで多くの方が驚くのが「一人会社でも株主総会が必要」という点です。
「自分一人の会社なのに、自分を相手に株主総会を開くの?」と感じるかもしれません。確かに形式的ではありますが、この手続きが「正式に決めた証拠」として機能します。税務調査のときに「ルール通りに決めました」と示せなければ、経費として認めてもらえないリスクがあります。
この決議は会計年度の開始日から3カ月以内に行う必要があります。
② 取締役会で各役員への支給額を決める
①で「全員合わせて○○万円以内」という上限を決めたら、次はその範囲の中で誰にいくら払うかを決めます。
取締役が複数いる会社では取締役会で決議します。一人会社などでは、株主総会から権限を委任された代表取締役が単独で決定できます。「上限を株主総会で、個別の金額を取締役会(または代表取締役)で」という2段階の構造です。
③ 議事録は一人会社でも必ず作成・保管する
株主総会の議事録は、会社法の定めにより作成・保管が義務付けられています。
出典:会社法第318条
最低限の記載内容は、開催日時・場所・出席者・決議事項・署名です。書式の指定はなく、テンプレートを使って作るだけで問題ありません。
議事録がない状態で税務調査を受けると、役員報酬の経費算入そのものを否定される可能性があります。
「自分で作るつもりだった」という方が、後回しにしてそのままになるケースがよくあります。税理士に依頼するとき、「議事録の作成も含まれていますか?」と一声かけておくだけで防げます。
④ 支給を始めたら翌期まで金額を変えられない
①〜③の手続きが完了したら、決定した金額の支給を毎月同額で開始します。
ここからが本番です。支給を始めた月から翌年の変更時期まで、原則として金額は変えられません。「半年後に業績が見えてから調整しよう」という考え方は通用しません。
設定する前に「1年間払い続けられる金額かどうか」を確かめておく。それだけで、あとから慌てずに済みます。
手取りが増える金額の設計方法

ルールと手続きがわかったところで、「具体的にいくらにすればいいか」という疑問が出てきます。唯一の正解はありませんが、3つの軸で考えると迷いが減ります。
軸① 創業期の報酬は平均より低くて正解
国税庁の統計によると、資本金2,000万円未満の会社の役員報酬は年間平均634万円、月換算で約53万円です。
「じゃあ月53万円が目安か」と思いたくなりますが、この平均には注意点があります。
この平均値には、創業10年・20年の安定した会社も全部含まれています。設立1年目の会社が同じ水準を目指す必要はありません。実務上、設立初年度は「会社のキャッシュを1年間確保できる金額」を起点に設定し、利益が安定してから翌期に引き上げることが多いです。
相場は「参考値」であって「基準値」ではありません。 自社の利益状況・生活費・設備投資の予定を優先して考えることが先です。
軸② 報酬を上げるほど節税になるわけではない
役員報酬を上げると、会社の利益が減り、法人税は下がります。しかし、その分、自分の収入が増えるので、所得税・住民税・社会保険料が上がります。単純に「上げれば節税」とは言えないのです。
| 設定のパターン | 法人税(会社が払う税金) | 個人の所得税・住民税・社会保険料 |
|---|---|---|
| 報酬を高くする | 下がる | 上がる |
| 報酬を低くする | 上がる | 下がる |
中小企業の法人税率は、年間利益800万円以下の部分は15%、800万円を超える部分は23.2%です。一方、所得税の税率は収入が上がるほど高くなり、最高45%まで達します。
出典:法人税の税率(国税庁) / 所得税の税率(国税庁)
見落とされがちなのが「会社側の社会保険料負担」です。
例えば月30万円の役員報酬にした場合。自分の手取りから引かれる社会保険料とは別に、会社もほぼ同額の社会保険料を負担しています。実際の追加負担額は月約4.3万円(全国健康保険協会・大分支部の2025年度保険料率をもとに試算)。
出典:令和7年度保険料額表(協会けんぽ大分支部) / 厚生年金保険料率(日本年金機構)
「月30万円の報酬にした」つもりが、会社全体では月34.3万円以上のコストがかかっています。この差を見落としたまま資金繰りを計画すると、手元のお金が思ったより残りません。
役員報酬を正確に試算するには、法人税(税理士の専門領域)と社会保険料(社労士の専門領域)を同時に計算する必要があります。顧問税理士に相談する際、「社労士と連携して社会保険料込みの試算も出してほしい」と一声添えておくと、試算の漏れを防げます。イデア総研では税理士・社労士が同一グループにいるため、この試算を一括でお出しできます。
軸③ 高すぎる報酬は税務署に否認される
役員報酬が「業績に対して不相当に高額」と税務署に判断された場合、超過した部分が経費として認めてもらえなくなります。
出典:法人税法施行令第70条
税務署は「役員の実際の仕事内容・会社の収益・同業他社の平均」などを総合的に見て判断します。「高く設定すればするほど節税になる」という発想で上限なく設定すると、否認されたうえに追加の税金と加算税・延滞税まで課されることがあります。
設立直後に信じがちな2つの思い込み

設立直後の経営者がよく陥る「正しいと思っていたが、実は違う」という思い込みが2つあります。
① 「売上の○%が目安」には根拠がない
「役員報酬は売上の20〜30%が目安」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。しかし、この通説には根拠がありません。
なぜ問題なのか。業種によって、売上から原価を引いた後の利益の割合がまったく違うからです。
例えば建設業や卸売業では、粗利率が10〜20%程度のことも珍しくありません。そこで「売上の20%を役員報酬に」という計算をすると、粗利のほぼ全額が役員報酬に消えていきます。税金を払う余裕も、設備投資をする余裕も、将来のために貯める余裕もなくなってしまいます。
正しい考え方は「粗利から役員報酬を払った後に、税金・設備投資・内部留保・従業員の人件費を賄えるか」で判断することです。実務上は「役員報酬と従業員給与を合わせた人件費全体が、粗利の40〜60%以内に収まること」がひとつの目安とされています。一人社長の場合は役員報酬単体でその範囲が基準になりますが、業種や段階によって変わります。
② 業績悪化での変更はほぼ使えないルール
「最初は少し高めに設定して、業績が悪化したら下げればいい」と考えていませんか?
実は、変更できる条件がかなり厳しいのです。
法律上、業績悪化を理由に年度の途中で役員報酬を変更できるのは「経営状況が著しく悪化した」ときだけです。
「著しく悪化」というのは、「売上が目標に届かなかった」「資金繰りが少し苦しい」レベルでは認められません。実際の判断では、銀行からのリスケジュール要請(融資の返済計画を変更してもらうこと)や、取引先と経営改善計画を作成するなど、第三者が関与した客観的な証拠が必要です。
「高めに設定して後で下げればいい」という前提で設定した結果、1年間払い続けられなくなってしまうというケースも考えられます。最初から「業績がブレても1年払い続けられる金額はいくらか」を確認したうえで設定することが、大切です。
まとめ:設立後3カ月以内に正しく設定して、損を防ぐ
役員報酬の設定ミスは、初めての確定申告まで気づかないことがほとんどです。
この記事のポイント
- 設立後3カ月以内に手続きを完了する(1日の遅れが経費否認につながる)
- 毎月の金額は1円のズレも認められない
- 一人会社でも株主総会・議事録は省略できない
- 適正額は相場ではなく、自社の粗利から逆算して決める
- 業績悪化での変更は条件が厳しく、「後で下げる」前提の設定は危険
「ルールはわかった。自分の会社では具体的にいくらが正解かまだわからない」と感じるのは当然です。適正額の試算は、法人税・社会保険料・会社のキャッシュフロー計画の3つを同時に見ないと正確な数字が出ません。
イデア総研では税理士・社労士・中小企業診断士が同一グループに在籍しており、税金・社会保険料・資金繰りを一括で試算できる体制があります。顧問先800社以上の実務経験をもとに、設立当初の報酬設計から伴走します。「金額の設計から相談したい」という方は、まずはお気軽にご連絡ください。