投稿日:2026.07.30 最終更新日:2026.07.30
青色申告の75万円控除は令和9年から|紙申告のままでは10万円に大幅減少
「青色申告の控除が変わるって聞いたけど、自分は何かしないといけないの?」 そう不安に思っている個人事業主やフリーランスの方もいるのではないでしょうか。
令和8年度税制改正により、青色申告特別控除の最大額は75万円に引き上げられます。しかし、これは「誰でも自動的に増える」わけではありません。むしろ、これまでのやり方のままだと、控除額が大幅に減ってしまう可能性も。
現在55万円の控除を受けている方が何の対応もしなかった場合、令和9年分から控除額は10万円へと大幅に減少します。その差額は45万円。所得税率が10%の人でも、約4.5万円の増税(手取り減)になってしまうのです。
しかも、帳簿側の設定や準備には「令和8年末(2026年12月31日)まで」という実質的な期限があります。手遅れになって損をする前に、まずはご自身の状況と、今すぐやるべきことを整理しましょう。
この記事でわかること
- 令和8年度改正で、青色申告特別控除がどう変わるのか
- 75万円控除を受けるための3つの要件
- 紙申告のまま放置すると控除が最大45万円減る理由と、前々年収入1,000万円超の人が控除0円になるリスク
- あなたの状況に合わせた「3つの影響パターン」と必要な対応
- 令和9年1月1日に間に合わせるために、税理士繁忙期前に済ませておくべき理由と準備ステップ
南 彰悟
1986年3月6日生まれ。大分県出身。早稲田大学を卒業後、25歳で公認会計士試験に合格。大手監査法人に8年程勤める。2020年税理士登録。イデア総研税理士法人の副代表として活動する。
令和8年度改正で何が変わる?控除額と要件の全体像

青色申告特別控除とは、しっかりとした帳簿付けを行っている個人事業主やフリーランスに対し、所得から一定額を差し引いて税金を安くしてくれる制度です。
現在(令和8年分まで)の最大控除額は65万円(e-Tax申告または電子帳簿保存の場合)。令和8年度の税制改正によってこの上限が75万円に引き上げられますが、要件も同時に変わります。
改正で控除額が65万円から75万円へ
改正前後の控除額の変化を一覧にすると、次のとおりです。
| 記帳方法 | 申告方法 | 現行 | 令和9年分〜 |
|---|---|---|---|
| 複式簿記 | e-Tax+優良電子帳簿 or データ自動連携 | 65万円 | 75万円 |
| 複式簿記 | e-Tax(優良電子帳簿・自動連携なし) | 65万円 | 65万円 |
| 複式簿記 | 紙申告 | 55万円 | 10万円 |
| 簡易簿記 | —(前々年収入1,000万円以下) | 10万円 | 10万円 |
| 簡易簿記 | —(前々年収入1,000万円超) | 10万円 | 0円(控除対象外) |
注目したいのは「紙申告でも55万円を維持できた控除枠がなくなる」点です。 今までは、複式簿記(すべての取引を「借方」と「貸方」の両面で記録する記帳方法)で記帳さえしていれば、紙(書面)で申告しても55万円引いてもらえました。
しかし、令和9年分からはe-Taxを使わない限り、複式簿記であっても、紙で申告した時点で一律10万円に引き下げられます。
控除が45万円減る(55万円から10万円になる)ことで、実際に増えてしまう所得税・住民税の負担(増税額)の目安は以下の通りです(住民税は原則一律10%として試算)。
- 課税所得200万円・所得税率10%の場合:所得税45万円×10%=4.5万円+住民税45万円×10%=4.5万円=年9万円の増税
- 課税所得700万円・所得税率23%の場合:所得税45万円×23%=10.35万円+住民税45万円×10%=4.5万円=年14.85万円の増税
新ルールは令和9年の所得から適用
法律としての「令和8年度税制改正」は令和8年4月1日に施行されました。しかし、確定申告に適用されるタイミングにはタイムラグがあります。
混乱しやすい部分ですので、スケジュールを時系列で整理しましょう。
- 令和8年(2026年)4月:改正法の施行(法律としてのスタート)
- 令和8年(2026年)12月末:優良電子帳簿のシステム設定完了の目安(令和9年1月1日の取引から有効にする必要があるため)
- 令和9年(2027年)1月1日〜12月31日:新制度に基づいた「日々の記帳」期間(ここから優良電子帳簿での記帳が必須)
- 令和10年(2028年)2月〜3月:令和9年(2027年)分の確定申告(新制度での初めての申告)
実際に新制度で申告(書類の提出)をするのは令和10年の初頭ですが、帳簿の記録自体は「令和9年1月1日(期首)」から新ルールに対応していなければなりません。
さらに、その帳簿を「優良電子帳簿」として認めてもらうためには、今年(令和8年)の年末までに会計ソフトなどの設定を済ませておく必要があるのです。
年の途中で慌てて設定を変えても、その年は75万円控除の対象外となってしまいます。「まだ先の話」と油断していると、その年の控除だけ取り戻せなくなってしまいます。
出典:デジタル庁「令和7年分所得税確定申告及び事業者のデジタル化促進に関する周知協力依頼の結果について(資料6)」
75万円控除を受けるための3つの条件

75万円控除には「複式簿記・e-Tax・優良電子帳簿(またはデータ自動連携)」の3つをすべて満たす必要があります。
どれか1つでも欠けると75万円にはなりません。
①複式簿記による記帳
すでに65万円または55万円の控除を受けている方は、複式簿記での記帳をすでにクリアしています。75万円を目指すなら、このまま複式簿記を続けたうえで、次の②e-Tax、③優良電子帳簿(またはデータ自動連携)を満たす必要があります。
もし現在「簡易簿記(10万円控除)」で申告している方は、複式簿記への移行が必須となります。 「簿記の知識なんてないから無理……」と心配する必要はありません。現在の主要なクラウド会計ソフト(freee、マネーフォワード クラウド確定申告、弥生会計など)を使えば、銀行データや領収書の入力から自動で複式簿記の形式へと変換してくれます。
ただし、税理士が申告書を作成しても、「帳簿の保存義務」と「最終的な納税責任」は事業主自身にあることは忘れないでください。
②e-Taxによる電子申告
e-Taxとは、国税庁が運営する国税電子申告・納税システムの略称です。確定申告書をインターネット経由で提出できる仕組みで、税務署に出向く必要がありません。
現行ルール(令和8年分まで)では、「e-Taxで申告する」か「電子帳簿保存を行う」のどちらか一方を満たせば65万円控除が受けられました。しかし、新ルール(令和9年分以降)では、「e-Taxによる電子申告」が必須となります。
印刷して税務署に郵送したり持参したり(書面提出)した時点で、控除額は10万円に引き下げられるのです。
国税庁の発表によると、令和7年分の確定申告では全体の77.1%(1,814万人)がすでにe-Taxを利用しており、年々増加しています。しかし、残りの約22.9%(約540万人)は依然として紙で申告しています。
まだe-Taxを利用したことがない方は、今からマイナンバーカードやICカードリーダー(またはスマートフォン)を準備し、電子申告ができる環境を整えておきましょう。
出典:国税庁「令和7年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」
③優良な電子帳簿の保存、またはデータ連携(どちらかでOK)
3つ目の条件は、以下の「選択肢A」か「選択肢B」のどちらか一方を達成していれば大丈夫です。
両方を行う必要はありません。
選択肢A:優良な電子帳簿の保存
優良電子帳簿とは、電子帳簿保存法の定めに従い、仕訳帳(日々の取引を記録する帳簿)と総勘定元帳(取引を科目ごとにまとめた帳簿)を電子データで保存する際に一定の要件を満たした電子帳簿です。ただパソコンで記帳しているだけでは認められず、以下の3つの要件を備えている必要があります。
- 訂正・削除・追加の履歴が残ること:データ改ざんを防止するため、変更した履歴が自動で記録される、または修正・削除自体ができない仕組みであること
- 帳簿間で相互関連性があること:仕訳帳から総勘定元帳へ、元帳から各種補助簿へと、金額や取引が追える状態であること
- 日付・金額・取引先で検索できること:税務調査などの際に、条件絞り込み・検索でデータを確認できること
Excelなどの表計算ソフトは訂正・削除履歴が残らないため、この要件を満たしません。
主要なクラウド会計ソフト(freeeやマネーフォワードなど)はこの要件に対応していますが、「ソフトを使っているだけで自動的に有効になっているわけではない」という点に最大の注意が必要です。
多くのソフトでは、初期状態でこの機能がオフになっています。「優良電子帳簿の設定」をご自身で管理画面からオンにする必要があります。この設定は、取引を開始する前、つまり令和8年末までに完了させておかなければなりません。
選択肢B:請求書データ等との自動連携(デジタルシームレス保存)
「デジタルシームレス保存」とは、銀行口座やクレジットカードの利用明細、あるいは電子請求書などのデータを、手入力を挟まずに直接会計ソフトに自動で取り込む手法です。
この「データ自動連携」を行って取引を記録している場合は、上記の面倒な「優良電子帳簿の設定」を別途していなくても、3つ目の要件をクリアしたものとみなされます。
すでにクレジットカードや口座の自動同期を活用して日々の仕訳を起こしている個人事業主の方にとっては、実はこちらのルートの方がハードルが低いかもしれません。こちらも財務省の大綱に明記されたルールです。
大企業向けの特別なシステムは不要です。個人事業主・小規模事業者でも市販のクラウド会計ソフトで対応できます。
自分はどれ?影響を受ける3つのパターンと対策

今回の改正による具体的な影響と取るべき対策は、現在の申告方法によって以下の3つのパターンに分かれます。
ご自身がどこに該当するか確認しましょう。
紙で申告している場合:控除が10万円に大幅に減少する
これまで紙で申告書を提出していた方は、令和9年分から控除額が55万円から10万円に大幅に減少します。 たとえば、課税所得が500万円(所得税率20%)の事業主の場合、控除が45万円減ることで、年間約9万円もの税金負担が増える計算になります。
ちなみに、現在すでにe-Taxで65万円控除を受けている方が、何らかの事情で紙申告に戻してしまった場合はさらに影響が大きく、10万円まで下がることで55万円分の控除を失うことになります。e-Taxを一度導入した後は、そのまま継続するのが得策です。
また、「前々年の売上が1,000万円を超えている簡易簿記(10万円控除)の方」はさらに注意が必要です。
令和9年分の確定申告における前々年とは、「令和7年」を指します。この年の売上(※所得ではなく売上高そのもの)が1,000万円を超えていて、かつ簡易簿記のままでいると、令和9年分からは青色申告特別控除が「0円(適用対象外)」になってしまいます。
「うちは利益(所得)が少ないから大丈夫」と思っていても、売上高が基準となるため、うっかりしていると税金が増えてしまいます。
早急に「複式簿記への移行」および「e-Taxによる電子申告」の準備を進めましょう。
なお、不動産所得が「業務的規模」(5棟10室未満など)の場合については、改正後も変わらず最大10万円の控除が認められます。
e-Tax申告のみで帳簿設定をしていない場合:65万円止まりになる
すでにe-Taxを使って電子申告をしている方は、制度が変わっても現在の「65万円控除」は維持されます。ただし、75万円控除に引き上げるには、優良電子帳簿の設定有効化(またはデータ自動連携)が追加で必要です。
課税所得が650万円(所得税率20%)の人であれば、あと10万円控除を上乗せするだけで年間2万円の節税になります。 優良電子帳簿の設定有効化はすぐに完了しますが、適用されるのは「設定を完了した日以降の取引」です。令和9年の1月1日からスタートさせるためには、必ず令和8年12月31日までに設定を完了させる必要があることを忘れないでください。
e-Tax申告で全要件を満たしている場合:75万円の最大控除を受けられる
すでに最新のデジタル環境を整え、データ自動連携や優良電子帳簿の設定を済めてe-Tax申告を行っている方は、特別な追加手続きは不要です。令和9年分の申告から、自動的に最大額である75万円控除が適用されます。
念のため、会計ソフトのアップデートや設定変更で、優良電子帳簿の機能が有効になっていることを確認しておくと安心です。
令和9年分に向けて、今から準備しておきたいこと

帳簿の設定は令和9年1月1日(期首)からの対応が必要です。
申告書の提出は翌年2〜3月でも、準備は今から始めておく必要があります。今の申告方法に応じて、やるべきことを確認しましょう。
紙申告の人:e-Tax申告への切り替えを検討する
まずは「紙での提出」を卒業し、電子申告の環境を整えましょう。
- マイナンバーカードの取得
申請から手元に届くまで3〜4週間ほどかかるため(申請状況により変動)、まだお持ちでない方は今すぐ申請しましょう。
- e-Tax対応の会計ソフトを導入する
freeeやマネーフォワード クラウド確定申告などは、ソフトの画面指示に従うだけでe-Tax送信まで完結できるため、初心者の方にもお勧めです。
e-Tax申告のみの人:会計ソフトの帳簿設定を有効化する
利用している会計ソフトが優良電子帳簿に対応しているか確認します(主要クラウド会計ソフトはほぼ対応済みです)。
設定画面から「優良な電子帳簿を利用する」「訂正・削除履歴を残す」等の機能をオンにするだけで完了です。
繰り返しになりますが、令和8年末までに設定完了が必要です。年の途中で設定しても当年には適用されず、翌年からしか認められませんので注意してください。
税理士に任せている人:e-Tax対応状況を確認する
「税金のことはすべて税理士に任せているから大丈夫」と考えるのは、もしかしたら危ないかもしれません。
税理士が紙(書面)で申告書を作成・提出している場合、e-Tax要件を満たせないため、令和9年分から65万円控除を受けられなくなり10万円に下がってしまうからです。 税理士に依頼しているかどうかにかかわらず、帳簿の保存義務と最終的な責任は事業主本人に残る点も忘れないでください。
担当税理士に、以下の2点を事前に確認しておきましょう。
- 「私の確定申告は、e-Tax(電子申告)で提出してくれていますか?」
※過去の申告書の控えの右上に「e-Tax受付番号」や「受信通知」があれば対応済 - 「今回の法改正に伴い、帳簿を『優良電子帳簿』または『自動連携(デジタルシームレス)』の要件を満たす形で管理・サポートしてもらえますか?」
もし、税理士側から「うちは紙での提出しか対応していない」「電子帳簿の細かい要件はそちらで管理してほしい」といった返答があった場合は、e-Taxや電子帳簿保存法に完全対応している税理士への変更を検討すべきタイミングです。
税理士選びの基準については、こちらの記事も参考にしてください。
法人化の成功は“税理士選び”が9割!?個人事業主が決めるべき内容を徹底解説!
「事業も順調になってきたし、そろそろ法人化かな?」 そう考え始めたものの、「何から手をつければいいかわからない」「手続きが複雑そう…」といった期待と不安で、ためらっていませんか? 法人化は、あなたの事業をさらに発展させる大きな機会です。 しかし成功させるには、「正しい知識」「適切なタイミング」、
準備するなら早めに!税理士の繁忙期に入る前がスムーズ
「令和9年の話なら、まだ時間がある」と思うかもしれません。しかし、早めに動いたほうがいい理由が3つあります。
- 年末(11〜12月頃)は税理士の繁忙期:この時期は、どの税理士事務所も年末調整や確定申告の準備で手一杯になります。新規の相談や、システムの導入サポート、税理士の変更手続きなどは断られてしまうか、対応が後回しになる可能性も。
- 優良電子帳簿の設定は令和9年1月1日から必要:令和9年1月1日にスムーズに運用を開始するためには、会計ソフトの選定や、クレジットカード・口座の連携設定、現在の税理士との引継ぎなどをそれまでにすべて完了させておく必要があります。
- 会計ソフトやe-Taxは慣れるまで時間がかかる:新システムやe-Taxの仕様に慣れるには少し時間がかかります。直前になって焦らないためにも、余裕を持ったスケジュールで進めると安心です。
具体的には、税理士の繁忙期に入る前の「10月頃」を目安に、現在の状況の確認と専門家への相談を終わらせておくと、余裕を持って対応できます。
まとめ:75万円控除を受けるために
この記事のポイント
- 令和9年分(2027年1〜12月の所得)から、青色申告特別控除の最大額が75万円に引き上げられる
- 75万円控除には「複式簿記+e-Tax+優良電子帳簿(またはデータ自動連携)」の3要件が必要
- 紙申告を続けると10万円に大幅減少。現在55万円控除の方は45万円の控除損失になる
- 「税理士に任せているから大丈夫」は要注意。e-Tax非対応の税理士では65万円も受けられなくなる
- 年末は税理士業界の繁忙期。早めに動くほど余裕を持って対応できる
令和8年度の税制改正で、青色申告特別控除は75万円に引き上げられます。ただし、その恩恵を受けるためには複式簿記・e-Tax・優良電子帳簿(またはデータ自動連携)の3要件を満たす必要があります。
紙申告を続けた場合は10万円に大幅に減少し、前々年の売上(収入)が1,000万円を超える簡易簿記の方は控除が0円になるリスクもあります。税理士に依頼している場合も、その税理士が電子申告に対応していなければ同じく要件を満たせないため、「任せているから安心」とは言い切れません。
優良電子帳簿のシステム設定は令和8年末までに完了させておく必要があり、準備には一定の時間がかかるため、直前に慌てると手遅れになりかねません。
イデア総研税理士法人では、複式簿記・e-Tax・優良電子帳簿の3要件を満たせているかの確認から、会計ソフトの設定変更まで、まとめてサポートしています。今の税理士のままで大丈夫かどうか、繁忙期に入る前の今のうちに一度確認してみませんか。